難治性潰瘍・フットケア

難治性潰瘍 (なんちせいかいよう)

 難治性潰瘍は治療に抵抗する慢性潰瘍のことですが、不適切な治療で潰瘍が長引いているものや、通常の治療では、なかなか治らないものまであります。難治性潰瘍のうちで一番良く見られる見られる褥瘡(じょくそう、いわゆる「床ずれ」)は、麻痺で寝たきりや歩行障害のある患者さんなどにもっとも多く見られます。

 褥瘡以外の難治性潰瘍の原因としては、外傷、糖尿病および末梢動脈閉塞症、放射線照射、静脈うっ滞(静脈瘤)、膠原病、リウマチなどが挙げられます。また、時として皮膚癌を認める場合がありますので注意が必要です。

足壊疽2 褥瘡症例(術前)

糖尿病による足壊疽(あしえそ)症例

大転子部にできた褥瘡症例
(*大転子とは、大腿骨の外側の出っ張たところを指します)

 

 難治性潰瘍の好発部位は下腿および足部です。これは、起立や歩行によりうっ血や血行不良をきたしやすく、身体の他の部位と比べて血液の流れが良くないため、いったん潰瘍が生じると治りにくいのが大きな理由です。また、傷の治癒を妨げる因子として、低栄養、感染、ステロイドや免疫抑制剤の服用、機械的刺激などがあげられます。

 難治性潰瘍の治療は、原因を解明して除去することにあります。さらに、全身および局所管理を十分に行うことも大切です。感染のコントロールのためには抗生剤を含んだ軟膏や、抗生剤の投与、および適切な創傷被覆材での保護などが行われます。これらで治らない場合にはデブリドマン植皮術などが行われます。潰瘍によっては腱や骨が露出している場合には皮弁(遊離皮弁)移植が必要となります。

 糖尿病性潰瘍や全身疾患を伴う潰瘍は再発しやすいため、治癒した後の管理も大切です。特に下腿の場合には、長時間の立ち仕事を避け、足を挙上してうっ滞しないよう日常の生活も改善することが必要です。また、治癒した潰瘍部を保護して再発させないことも大切です。

 治癒しない傷や潰瘍ができた場合、できるだけ早く創傷の専門医(創傷外科学会のホームページご参照ください)の診察を受けることが望ましいと考えられます。

 

褥瘡 (じょくそう)

 褥瘡は「床ずれ」とも呼ばれます。自分自身では体位の変換が不可能で、長期間寝たきりの麻痺患者さんや歩行障害のある患者さんなどに多く見られる合併症です。

 一般的な褥瘡は、まず、身体の病的骨突出部において、皮膚や皮下の組織が患者さん自身の体の重さで圧迫され、その部分の血流が遮断されるため組織が壊死して発生します。そして、体位変換中の「皮膚のずれ(せん断応力)」が褥瘡を悪化させる原因になります。もちろん、原因となった疾患や年齢に伴う低栄養、老化、不潔な皮膚状態などは褥瘡を悪化させます。したがって、介護の仕方(栄養管理、局所の清拭、褥瘡予防高機能マットレスの使用、こまめな体位変換、体位変換の仕方)などで十分に予防が可能なこともあります。一方、発生した褥瘡が進行すると、皮下の広い範囲ににポケットを生じ膿がたまり(感染)、骨組織が露出するなどして極めて治りにくくなるのが特徴的です。

 寝たきりの同じ体位で長時間の療養や介護を受けるような場合に、仙骨部、踵骨部、後頭部、肩甲部、大転子部などの病的骨突出部に褥瘡が発生します。また、対麻痺、四肢麻痺の患者さんでは車椅子などでの長時間の坐位姿勢が原因で坐骨部に発生しますので注意が必要です。

褥瘡が出来やすい部位

褥瘡が出来やすい部位

 

 褥瘡は、深さおよび創面の色調状態などによるいろいろな分類方法があります(詳細は、日本褥瘡学会ホームページご参照ください)。治療方針は、外科的治療か保存的治療を選択するか、また、保存的治療ではどのような創傷被覆材や外用薬剤を使用するかの決定が大切になります。

褥瘡の治療方法

(1)保存的治療

 適切な保存的療法で治癒する褥瘡も多いため、明らかな骨露出を伴うような重度の褥瘡以外は、まず、保存的療法が行われます。保存的治療は、また、基礎疾患が進行性で全身状態が不良で手術に耐えられない場合や、また手術後に十分な介護が受けられず、術後再発が容易に予測される場合などでも選択されます。

 保存的治療では、褥瘡を進行させないため創面局所の血流を阻害しないことが基本となり、常時、褥瘡部を圧迫しないような対策が必要です。このため規則的な(約2-3時間ごと)体位変換を行い、褥瘡創面をできるだけベッドと接触しないようにします。できれば、エアーマット、高機能マットレッスなどを使用して創への圧迫の軽減を図ります。また、患者さんの栄養状態を改善することも重要です。また、近年種々の皮膚潰瘍治療剤および創傷被覆材が開発されておりますが、1種類の薬剤や被覆材で全ての時期の褥瘡を治療することは不可能で、創の状態で適切なものを選択する必要があります。

(2)外科的治療

 褥瘡の外科的治療方法は、1970年代後半より種々の方法が報告され、現在までに仙骨、大転子、坐骨部などの部位別に多くの手術方法が開発報告され、褥瘡切除創を確実に閉鎖でき、安定した術後成績が得られています。

 手術法は患者さんの基礎疾患とその疾患の将来の回復の見込み、年齢、合併疾患の有無(糖尿病、動脈硬化症、肥満)、麻痺の有無、全身状態、リハビリテーション、褥瘡の大きさなどを総合的に考慮して、術後再発が少なく、患者さんへの肉体的負担の少ない方法を選択します。どのような外科手術を行っても、術後に再発防止の看護体制がうまく組まれていないと再発を起こしやすいので、手術した意味がなくなります。

褥瘡症例(術前) 褥瘡症例(術後)
大転子にできた褥瘡(術前) 筋皮弁による褥瘡の閉鎖(術後)

 

下肢救済(かしきゅうさい)・フットケア

 下肢・足部はいろいろな原因で血液の流れが悪くなり、皮膚や足指が壊疽に陥ることがあります。一番多い原因は、糖尿病と末梢性動脈閉塞症(PAD)という病気です。どちらも下肢(特にひざより下)の主要な動脈の壁が変性して、硬く狭くなることで動脈血の流れが悪くなり、皮膚や足指、ひどい場合には下腿全体が壊死してしまいます。また、下腿の静脈瘤が原因で発生するうっ血性の下腿潰瘍、リウマチのような膠原病が原因となる潰瘍などもあります。

フットケアを行っている様子

フットケア外来での処置の様子

 

 従来の治療では、壊死した部分よりかなり中枢部分でを切断することが多かったのですが、最近では、できるだけ下肢の長さを残すように治療して、歩行が可能な状態を保つ下肢救済・フットケアの概念が広がっています。このためには、細くなった動脈の拡張をする放射線科あるいは循環器科、動脈のバイパスを作る血管外科、壊死や壊疽を起こした下肢の全体的なケアと断端部の閉鎖を行う形成外科、義足を作るリハビリテーション科、さらに創傷を扱う専門看護師、栄養士など、医師と看護職員がチームを作って総合的に治療を行うことが勧められます。

 杏林大学でも形成外科内に設けたフットケア外来(毎週木曜日、大浦紀彦講師・外来医長担当)で、総合的な下肢救済治療を行っております。

 

新しい創傷治療法「陰圧創傷治療システム」による治療

  新しい創傷治療法「陰圧創傷治療システム」は、難治性の傷を被覆材で密閉し、専用機器で吸引して陰圧状態を維持しながら創傷の治療を行う方法です。

  日本では、2009年11月に厚生労働省から承認を受けて、2010年4月より保険診療で使用できるようになりました。

  現在、使用を許可されている専用システムは、KCI社の「V.A.C.ATS®治療システム(VAC療法)」だけですが、同社の臨床試験(国内の11の医療機関で計80人の患者さんを対象にした治験)の結果によると、傷の閉鎖にかかった日数は、「V.A.C.ATS®治療システム(VAC療法)」使用では平均17.7日という結果を得ました。従来の治療を行った場合の平均日が63.5日に比べて、圧倒的に期間が短縮されています。

  当科でも、このシステム(VAC療法)を使用することが出来ます。  

 → 陰圧創傷治療システムについて詳しく読む

 

 

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